埋めるのやめて
岡田忠昭
アンベ君はまだ会長を続けている。児童ぎかいのせんきょの時ぼくらは平和色のハタからケンカの色がすけて見えるとみんなに伝えたんだけど、みんなはそうは見えなかったみたいだ。
あれからアンベ君はますますウソを言うようになった。知っているにちがいないのに平気で知らないよと言う。みんなもうんざりしている。だけど、かわりの子がいないからやらせておけばいいじゃないと気がるに言う子もいる。
うちの学校の南西組の教室のすぐ前の校庭に、よその学校のすごくこわい子たちのキチがある。ずっと前に大きななケンカがあって、その時むりやりにキチをつくってしまったそうだ。そのキチにこわい子たちが毎日のようにあそびに来てケンカのれんしゅうをしている。南西組の子たちは校庭で自由にあそべないし、こわい子たちにいじめられたりしている。南西組の子たちはキチをなくしてほしいと言っているけど、アンベ君たちは「いいよ、いいよ、使って。」と言っているのでちっともなくならない。
その子たちが「新しいキチを作ってくれたら今のキチは返してやってもいい」と言いだしたので、「それじゃあ作ってあげよう」とアンベ君たちが新しいキチを作り出した。
そこはもともと池があったところで、トンボやメダカが育つように見守っていた場所だ。その池をうめて、ケンカのれんしゅうをするキチを作り始めた。南西組の子たちはやめてと言ったけど、よその学校の子たちがずっと前にキチをつくった時と同じように、むりやりうめ始めた。
ところがその池がとっても深いことがわかったんだ。見た目は浅そうに見えるんだけど、マヨネーズみたいにふにゃふにゃの泥が、大人の背たけぐらいもたまっているんだって。校庭にはそんなにたくさんの砂はないし、うめたって、その上でとんだりはねたりできないよね。それでもアンベ君たちは、「何とかなるさ。やれやれ」って、どんどん砂や土を投げ込んでいるんだ。きれいな水も茶色くにごって、水すましやゲンゴロウも死んでしまうよ。
南西組の子たちは勇気を出してクラス投票をした。半分以上の子が投票して、そのうち七割の子がキチは作ってほしくないと言った。それでもアンベ君は平気で、毎日むりやり浅いところに砂や土を投げこんでいる。
先生たちはいつも民主しゅぎが大切だと言っている。だから本当は、みんながイヤだと言っていることはやってはいけないんだ。クジョウ君たちもがんばって、毎日アンベ君にやめろと言っている。
アンベ君はこの前、悪いことをしようと相談した子はなぐってもいいというきまりを作った。だから「おれに反対するヤツはみんな悪いやつだからなぐってやる」と言って、本当になぐりに来るかもしれない。だから、よわむしのぼくはこわくてたまらない。だけどクラス投票までして「キチを作らないで。うめるのやめて」と言い続けている南西組の子たちのことを考えると、とてもだまっていられない。
もうすぐまた児童ぎかいのせんきょがある。だから勇気を出して、仲間の子たちといろいろな色のハタを立てて、クジョウ君たちをおうえんしようと思う。そうしてアンベ君をやめさせたい。そうしないと池の中のフナやドジョウといっしょに、学校で一番たいせつな民主しゅぎも死んでしまうから。
愛知詩人会議「沃野」624(19年6月)号